2009年07月22日

ぎょうせいえんしゅう38

【38】
Y税務署の職員Xは,職場の定期健康診断として胸部レントゲン撮影を受けたが,その結果について格別の通知を受けなかったので,従前通りの職務に従事していた。
ところが,その後の診断により,定期健康診断当時から結核に罹っていたことが判明した。
そこでXは,(i)レントゲン医師の読影に過失があった, (ii)レントゲン医師がY税務署長にレントゲン検査の結果を報告するのを怠った過失があった, (iii)Y税務署長がXに対し健康保持上採るべき措置を怠った過失があった,または(iv)医師の報告を受けたY税務署職員がY税務署長に伝達する過程に過失があったがゆえに,Xが結核について長期療養を余儀なくされたとして,国家賠償請求訴訟を提起した。
かかるXの請求は認められるか。
〔素材は最判昭57・4・1百選U231〕


第38問 解答例
1 本問では,加害公務員及び加害行為がi)、ii)、iii)、またはiv)と、特定されていない。そこで、Xが国家賠償請求するために、加害公務員及び加害行為を特定する必要があるのかが問題となる。

2(1) ↓ この点
国家賠償責任を国・公共団体の自己責任であると捉える説(自己責任説)からすれば、抽象的に公務員が加害を加えていれば足り、加害公務員及び加害行為を特定する必要はないといえる。
↓ しかし
国家賠償法は公務員の故意・過失という主観的要件を必要としており(1T)、また、故意・重過失の場合における加害公務員への求償も認められている(1U)。
↓ このことからすれば
国家賠償責任は本来加害者である公務員が負うべき責任を国・公共団体が代わって負うものであると解するべきである(代位責任説)。
(2) ↓ そして
代位責任説にたつと、当該行為をした公務員に不法行為が成立している必要がある。
↓ そうだとすれば
加害公務員及び加害行為を特定しなければ故意・過失を認定できないので、原則として1条の成立要件として加害公務員及び加害行為の特定が必要であるといえる。
(3) ↓ もっとも
常に加害公務員及び加害行為を特定することを要求すると、被害者にとって過度の負担となり、国家賠償法の被害者救済という趣旨を没却する。
↓ そこで
@公務員による一連の職務上の行為の過程において被害を生ぜしめ、
A一連の行為のうちいずれかに行為者の故意・過失がなければ当該被害が生じないと認められ
Bそれがどの行為にせよこれによる被害を国などが法律上賠償すべき関係にあり
C一連の行為を組成する各行為のいずれもが国又は同一の公共団体の公務員の職務上の行為に当たる場合
には、加害公務員及び加害行為を特定する必要はないと考える。
3 ↓ 本問では
一連の行為のうち、iii)とiv)については、Y税務署長その他職員の職務上の行為であることは否定できない。
↓しかし
i) とii)の行為については、医師が専らその専門的技術及び知識経験を用いて行う行為であって、医師の一般的診断行為と異なるところはないから、それ自体としては公権力の行使たる性質を有するものではないというべきである。
↓ そうだとすれば
本問は、C一連の行為を組成する各行為のいずれもが国又は同一の公共団体の公務員の職務上の行為に当たる場合にはあたらず、原則通り加害公務員及び加害行為の特定が必要な場合にあたる。
↓ したがって
どの公務員のどの行為に故意・過失があったか特定できていない本問では、Xの国家賠償請求は認められない。
以上


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ぎょうせいえんしゅう37

【37】
Y市では,一定規模以上の宅地開発事業を行うことを計画している事業主に対しては,開発指導要綱に基づき金銭負担を要求しており,従わない者に対しては水道利用を拒否するなどの措置をとっていた。
Y市で宅地開発事業を行おうとしたXは,Y市から開発指導要網に基づいて金銭負担(開発負担金)を要求された。XはY市に対し金銭の減免を懇請したが断られて,やむなくこれに応じた。
Xは,Y市に対し国家賠償請求訴訟を提起し,納付した開発負担金相当額の損害賠償を請求することができるか。
〔素材は最判平5・2・18百選U100〕




第37問 解答例
1 XのY市に対する国家賠償請求は認められるか。国家賠償請求の要件(国家賠償法1条1項)を満たしているかが問題となる。

2 「公権力の行使」について
↓ まず
Y市の開発指導要網は法令の根拠に基づくものではなく、Y市が開発指導要綱に基づいて金銭を要求した行為は行政指導といえる。
↓ では
行政指導のような非権力的行政活動であっても「公権力の行使」といえるか。「公権力の行使」の意義が開講となる。
↓ この点
文言通りにとらえ、権力的行政活動しか「公権力の行使」に当たらないと解する説もある(狭義説)。
↓ しかし
国家賠償法1条には選任監督についての免責規定がなく、民法715条よりも被害者救済に厚いことから、国家賠償法1条は民法715条の特別法であるといえる。
↓ そうだとすれば
純粋な私経済的作用と公の営造物の設置管理作用を除き、本来民法の射程範囲にある非権力的作用まで及ぶ。
↓ したがって
行政指導のような非権力的行政活動であっても「公権力の行使」にあたると解すべきである。

3 「違法」性について
(1) ↓ 次に
開発指導要綱に基づいて開発負担金を要求したY市の行為は「違法」といえるか。
↓ この点
行政指導は、あくまで「相手方の任意の協力によってのみ実現されるもの」であるから(行政手続法32T参照)、実質的に相手方の任意性を脅かす態様での行政指導は違法であるといえる。
↓ では
どのような場合に違法といえるか。
↓ まず
行政指導に従うよう説得を重ねることは、「任意の協力」を促すのみであるので許される。
↓ しかし
相手方が行政指導に対する不協力の意思を真摯かつ明確に表明して以降も行政指導を続けることは、もはや「任意の協力」を促すとはいえず、許されない。
↓ また
相手方の主観的態度のみならず、行政指導の態様、要綱の文書、運用実態など行政指導の客観的態様から判断し、行政指導に従うことを事実上強制しているといえるような場合にも、もはや任意の協力によってのみ実現されるものとはいえず、違法になると考える。
(2) ↓ これを本問についてみると
XはY市に対し減免を求めているものの、行政指導に従わない意思を真摯かつ明確に表明しているという事情はない。
↓ しかし
Y市は、減免の懇請に応じないなど、Xから要求通りの開発負担金が支払われることを前提としているかのように対応しているのであり、開発負担金の納付が事業主の任意の寄付であることを認識した上で行政指導をするという姿勢は、到底うかがうことができない。
↓ また
本問の行政指導の運用においては、開発負担金の納付に応じない者に対しては水道利用の拒否をするなどの措置をとっていた。
↓ そして
本問でXが水道を利用できないと、事実上宅地開発業務はできないことになり、Xは宅地開発業務を断念せざるを得ないのであるから、Y市は、水道利用の拒否という制裁措置を背景として指導要網を遵守させようとしていたといえる。
↓ これらの事情からすれば
Y市は、開発負担金の納付を事実上Xに対し強制しているといえ、行政指導の限度を超えているといえる。
(3) ↓ よって
Y市の行為は違法である。

4 「損害」について
Xが納付した開発負担金は「損害」といえる。

5 因果関係について
↓ この点
Xは、一応納得して開発負担金を納付したのであるからY市の行為とXの納付との間に因果関係がないとも思える。
↓ しかし
国家権力を背景とする行政指導を私人が拒むのは容易ではない。
↓ そこで
事実上の強制力があれば因果関係を認めるべきである、
↓ そうだとすれば
前述のように、本問では事実上の強制が認められるので、因果関係は認められる。

6 結論
↓ 以上より
Xは、Y市に対し国家賠償請求訴訟を提起し、納付した開発負担金相当額の損害賠償を請求することができる。
以上


■合格者の目■
国家賠償法1条1頂の各要件の検討は必要であるが、実際に新司法試験で答案を作成する場合にはメリハリを付ける必要も生じるだろう。いずれの要件を検討する場合でも、問題文から事実を丁寧に拾って認定することが必要である。なお、「違法性」の要件については、「故意・過失」との関係も問題となりうるので各自で確認していただきたい。
本問のメイン論点は「違法性」の要件検討の中で、相手方の任意性をどのように判断するかである(なお、答案構成例では、要綱の文言も考慮要素とされているが、問題設定の関係上特に検討しなかった。)。生活に必要不可欠な水の供給を拒むことは水道法でも正当な理由がなければ認められておらず、刑事罰の対象ともなる(水道法151、最判平元・118百選T95参照)。このような事情も素材の判例で触れられており、任意性判断に影響を与えたと考えられる。事実認定の参考になるだろう。

ワンポイント・アドバイス
新司平成18年第2問設問2では、@市長の規則制定行為、A2項道路該当性に関する職印の回答行為のそれぞれにつき、国家賠償法1条1項による損害賠傭請求の可否を検討さ
せる出題がなされた。
この設問では、公権力の行使、故意・過失、違法性などの要件の意義を正確に捉えていること,および上記@Aの各行為につき具体的にあてはめを行っていることが要求されていた。
上記問題の資料2で弁護士Kが「普通の民事上の不法行為と対比して独特な問題も有り得る」と述べていたことから分かるとおり、行政法の実体法を学習する際には、民法と対比する視点が欠かせない(手続法においては、もちろん民事訴訟法との対比が不可欠である)。一見負担が重いようであるが、こうした対比の視点を持つことで行政法と民事法の両方の理解が飛躍的に進むので、逆に時間の節約になる。

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ぎょうせいえんしゅう36

【36】
以下の各小問について答えよ。
〈1)当事者訴訟にはどのようなものがあるかについて論じなさい。
(2)平成18年法第62号による改正前の公職選挙法の規定によれば,日本国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民(在外国民)は,衆議院比例代表選出議員の選挙及び参議院比例代表選出議員の選挙に限り投票することができ,衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙については投票することができないこととされていた。この場合において,在外国民が,次回の衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙において選挙権を行使できることの確認を求めて確認訴訟を提起することができるかについて論じなさい。
〔素材は最大判平17・9・14百選U209〕


第36問 解答例
1 小問(1〉について
当事者訴訟には、実質的当事者訴訟と形式的当事者訴訟とがある。
(1)実質的当事者訴訟について
実質的当事者訴訟とは、公法上の法律関係に関する確認の訴えその他公法上の法律関係に関する訴訟をいう(行政事件訴訟法4後段)。
↓ これは
取消訴訟の対象となる処分以外の行為形式に対応した実質的紛争の解決の実現を図り、私人の救済範囲を拡大するために認められた訴訟類型である。

(2)形式的当事者訴訟について
形式的当事者訴訟とは、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするものをいう(4前段)。

かかる形式的当事者訴訟は本質的には行政庁の処分又は裁決の効力を争う訴訟であり抗告訴訟としての実質を持つ、
↓ しかし
処分の効力にさして影響のない補償額などに関する争いはむしろ当事者間で争わせたほうが妥当といえる。
↓ そこで
立法政策上形式的に対等な当事者間の訴訟で争うべきことを法定しているのである。

2 小問(2)について
在外国民が、次回の衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙において選挙権を行使する権利を有することを確認するため確認訴訟を提起することができるか。
(1) ↓ まず
選挙権があることの確認は、「公法上の法律関係に関する確認」(4後段)といえる。
(2) ↓ では
確認の利益があるか。
↓ この点
選挙権は、行使することができなければ意味がないものといわざるを得ず,侵害を受けた後に争うことによっては権利行使の実質を回復することができない性質のものである。
↓ そうだとすれば
その権利の重要性にかんがみ、具体的な選挙につき、選挙権を行使する権利の有無につき争いがある場合にこれを有することの確認を求める訴えについては、それが有効適切な手段であると認められる限り、確認の利益を肯定すべきものである。
↓ そして
本問確認訴訟は、法改正がなされなければ在外国民が今後直近に行われる選挙で選挙権を行使する権利を侵害されることになるので、これを防止するために、当該選挙について選挙権を行使する権利を有することの確認をあらかじめ求めるものであって有効適切な手段といえる。
↓ よって
確認の利益はある。
(3) ↓ 以上より
在外国民は本問確認訴訟を提起することができる。
以上

posted by あひるねこ at 08:30| ぎょうせい | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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