(1) Aは,法律に基づき行政庁に営業許可申請書を持参したが,行政庁の職員Bは周辺住民の同意書を提出するようにと指示して,申請書を返戻した。Aは,自宅に戻り弁護士に相談したところ,周辺住民の同意書を添付することは法律上要求されていないことが確認された。そこで,Aは周辺住民の同意書は添付しないので,直ちに審査して欲しい旨の内容証明郵便とともに申請書を行政庁に送付した。しかし,Bは周辺住民の同意書が添付されていない以上,審査できないという書面を同封して申請書を返送した。Aはその後も何度もBに審査を開始するよう催促したがBの態度は変わらず,1年が経過した。Aは,銀行から借りた営業資金の金利の負担も大きくなったため,法的手投を採ることとした。
Aはどのような法的手段を採ることが可能か。
(2) Cは主務省令の定めるところに従い,自宅のパソコンからインターネットを利用して申請を行い、行政庁の使用するコンピューターのファイルに申請が記録されたが、行政庁の担当職員は,多忙を理由として,プリントアウトすることなく放置していた。
Cはどのような法的手段を採ることが可能か。
〔素材は国T平成15年度必須問題〕
第41問 解答例
第1 小問(1)
1 不受理処分取消しの訴え、受理の義務付けの訴え(行政事件訴訟法3U・YA)について
取消訴訟、義務付け訴訟はその対象が「処分」(3U・Y)である必要がある。
↓ そして
「処分」とは公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められている行為をいうところ、行政手続法上申請についての受理概念は否定されており(行政手続法7)、不受理は、事実上の行為にすぎず、「処分」とは、いえない。
↓ よって
不受理処分取消しの訴えや受理の義務付けの訴えはできない。
2 不作為の違法確認の訴え(行政事件訴訟法3V)について
(1〉 Bに、Aの申請を審査し、許可・不許可の処分をする義務があるか。
↓ この点
申請が「事務所に到達したとき」は、行政庁は遅滞なく審査を開始する義務を負う(行政手続法7)。
↓ そして
「到達」とは、申請が物理的に到達し行政庁の支配領域に入ったことをいい、行政庁の受領の意思表示は不要とされるので(受理概念の否定)、たとえBが申請書を返送していたとしても、申請はBに物理的に到達している以上、Bは審査義務を負う。
(2) ↓ もっとも
Bは周辺住民の同意書を提出せよという行政指導をAに行っており、その説得の手段としてAの申請に対する応答を拒んでいる。
↓ かかる場合
Bは、審査をしないことが許されるか。
ア ↓ この点
行政指導は「任意の協力」で実現する必要があるが(32T)、説得を重ねることは「任意の協力」を促す行為であり、申請者が不服従の意思を明確にするまでは、応答を留保することができると考える。
イ ↓ そうだとしても
本問でAは「周辺住民の同意書は添付しない」旨の内容証明を送付しており、不服従の意思を明確にしている。
↓ よって
行政指導継続中を理由に応答を留保することはできない。
(3) ↓ 以上より
Bは直ちにAの申請に対し応答する義務を負うところ、1年以上も応答していない。
↓ そして
営業許可申請の返答に通常有する期間として1年もの期間は不要といえる。
↓ よって
「相当の期間」(行政事件訴訟法3V〉は経過している。
(4) ↓ したがって
Aは、Bが応答をしないことについて、不作為の違法確認の訴えをすることができる。
3 許可処分の義務付けの訴え(3YA)について
(1) Aは営業の許可を求めているのであり、Aは、前記不作為の違法確認の訴えに勝訴しても救済としては不十分である。
そこで、Aとしては、許可処分の義務付けの訴えを併合して提起することが考えられる(37の3T@・V@)。
↓ そして
(2) 周辺住民の同意書の添付は法律上要求されておらず、Aは申請の要件を充たしており、行政庁が営業の許可をすべきであることが「法令の規定から明らかである」(37の3V)といえるから、Aの訴えは認められる。
4 国家賠償請求(国家賠償法1T)
(1) 行政指導は、「任意の協力」によることが前提であるので、相手方が不服従・不協力の意思を明確にしたにもかかわらず、行政指導を継続することは、申請者の不協力が社会通念上正義の硯念に反するものといえるような特段の事情が存在しない限り、国家賠償法上「違法」であると考える。
↓ 本問では
Aの不協力が社会通念上正義の窮念に反するとの特段の事情はない。
↓ そうだとすれば
Aが不服従の意思を明確にしたにも関わらず、行政指導を継続し、申請に対する応答をしなかったことは「違法」といえる。
(2) ↓ そして
かかる「違法」により、Aは営業の開始が遅れ、営業資金の金利などの財産上の「損害」が発生している。
(3) ↓ よって
Aは国家賠償請求ができる。
5 不作為についての異議申立て、審査請求(行政不服審査法7)
AはBの不作為について異議申立てや審査請求ができる。
第2 小問(2)
1 インターネット申請においては、行政庁の使用するコンピューターに記録された時点で「到達」があったといえる(行政手続などにおける情報通信の技術の利用に関する法律3T・V)。
↓ なぜなら
行政庁が記録された申請を見るか否かは行政庁側の事情であり、コンピューターの記録があれば行政庁の支配領域に入ったといえるからである。
↓ そうだとすれば
行政庁の担当職員が申請を放置していることは、小問(1)と同じく、申請に対する応答義務を定めた行政手続法7条に反する。
2 以上より
Cは、不作為の違法確認の訴え、申請に対する許可処分の義務付けの訴え(行政事件訴訟法3V、YA)、不作為についての異議申立て、審査請求(行政不服審査法7)ができる。
以上
■合格者の目■
本問では採りうる「法的手段」が問われていることから、行政事件訴訟のみならず、国家賠償請求や行政不服審査請求についても言及する必要がある。その際に、どのような結果になることが必要なのか(金銭で解決すれば済むのか、行為を停止する必要があるのか等)という視点を持つことが問題解決には大切である。そして、複数争う方法を考えた場合には,求める効果との関係で、どの方法が最も有効・適切か、またそれぞれが矛盾しないか、検討する必要がある(平成19年新司法試験公法系のヒアリング参照)。