2009年10月04日

とうさん100選31−40

NO31:保証・担保の供与と無償否認
【事案の概要】
 A会社は資金繰りが悪化したため、材料購入先であるY社に支払い猶予を求めた。BはAの実質上の経営者であるが、AのYに対する一切の債務について連帯保証をし、且つB所有の不動産上に根抵当権を設定。そのさいBは保証料等は何ら受け取っていない。
 その後Bが破産。Xが管財人に選任。根抵当権設定されているBの不動産について任意競売が実施されたところ、XはYに対して根抵当権の設定は160条3項の無償行為に当たると主張。
 原審でY敗訴のためY上告。

【判 旨】:上告棄却
 「根抵当権等の担保の供与は、…破産者がその対価として経済的利益を受けない限り、無償行為に当たると解すべきであり、右に理は主たる債務者が同族会社であり、破産者がその実質的経営者でも妥当する」「無償行為として否認される根拠は、破産者の行為が対価を伴わないものであって破産債権者の利益を害する危険が特に顕著であるため、破産者及び受益者の主観を顧慮することなく、専ら行為の内用及び時期に着目して特殊な否認類型を認めたことにあるから、その無償性は専ら破産者について決すれば足り、受益者の立場で無償であるかどうかは問われない」「破産者の前記保証等の行為とこれにより利益を受けた債権者の出捐との間には事実上の関係があるに過ぎず、また、破産者が取得する事のあるべき求償権も当然には右行為の対価としての経済的利益に当たるとはいえない」


32 手形の買戻と否認の制限
【事案の概要】 6月28日、A支払停止。7月23日破産申立て、その後破産宣告、Xが管財人に就任。
 ところでAは、自己が取得したB振出の約束手形12通をY銀行に交付、手形割引の方法で融資を受けていた。しかし6月28日、@AはYより同手形11通を満期前の買戻し、手形をBに返還 AAはYより手形1通の遡求を受け、支払をなし手形を受け戻し、手形をBに返還。
 そこでXがYに対し、買戻し・受け戻しを否認し、買戻代金と遅延損害金の支払を請求。
一審: Xの請求認容。
原審: Xの請求棄却。手形を買い戻したAがそれを振出人に返還した場合、買戻しが否認されると、Yは振出人に対して権利を行使することができなくなる。@手形の買戻し→163条1項の類推適用、A手形受け戻し→163条1項直接適用により、否認は許されない。
【決定要旨】 破棄差戻し。
・ Xが否認する行為は手形割引に伴う消費貸借契約に基づく債務の弁済行為である。
・ 163条1項は、破産者から手形の支払を受けた者が、その支払がなければ前者に対する訴求権行使のための法定手続をなしえたであろうことを考慮する制度。「債務者の一人又は数人に対する手形場の権利」とは、前者に対する遡求権を指し、「手形の支払」とは約手振出人の支払を指す。本件のように振出人でない破産会社が支払・買戻をした場合、同条項を適用・類推適用する余地はない。
【解 説】 
・ 手形の満期が到来し、振出人が経済的に破綻しているときのジレンマ。所持人は、振出人等に対する手形の呈示による拒絶証書の作成を受けなければ裏書人に対する遡求権を失う。しかし呈示をして支払を受けても、後にそれが否認されれば、もはや拒絶証書の作成はできず遡求権行使の機会が失われる。→遡求権保全のためには支払を求めざるを得ないが、支払を受けても否認されれば遡求権を失うというジレンマがある。この解消が163条1項の目的。
・ 確かに本件のAは裏書人であり、Aの買戻が否認されると、手形がBに返還されているため、Yは手形の返還を受けられずBにも行けないうえ、Aに買戻金を返還しなければならない。
・ しかし、Yは、確かに否認されると権利行使はできなくなるが、そもそも買戻を請求しなくても遡求権を失うわけではなく、上述のジレンマには陥っていない。


33 対抗要件の否認
 管財人が不動産につき相手方に対し、否認権を行使して不動産移転登記抹消登記請求を提起した場合、160条〜162条によって原因行為たる契約自体を否認できないとしても対抗要件否認(164)の要件を満たす場合には、管財人からの主張がなくても裁判所は釈明権を行使して164条につき主張・立証させるよう努めなければならないか。
 164条の趣旨は、対抗要件の充足行為も、本来は、160条・162条によって否認の対象となり得べきであるが、原因行為に否認の理由がない限り、できるだけ対抗要件を具備させることとし、一定の要件を満たす場合にのみ、特にこれを否認し得ることとした点にある。
 (そして、原因行為の否認と対抗要件の否認とが同一訴訟物を理由付ける複数の請求原因という関係に立ち、また、管財人としては原因行為の否認が否定された時には予備的に対抗要件の否認について審判を求めていることが)ほとんど疑いを容れる余地がない。
 したがって裁判所としては、(原因行為を否認する場合に管財人からの主張がなくても)対抗要件の否認について主張・立証させるように努めた上で、この点についても判断すべきことが当然である。
 ※試験委員・笠井正俊先生の解説
 判例は、対抗要件否認(164)につき制限説に立つことを明らかにした。すなわち対抗要件具備行為も、財団にとって権利の移転と同じ価値を有するので、本来、否認の一般規定によって否認できるはずであるが、新たな権利移転ではなく、既に生じた権利移転を完成させる行為に過ぎないから、164条が厳格な要件を定めて、否認を制限したとする。
 制限説に立つと、「支払の停止等があった後」(164)の要件を満たさない場合、すなわち支払停止前または破産開始決定前の対抗要件具備行為について160条1項1号による否認の余地があるかという問題が残り、同条の要件を満たせば認められるとする肯定説と164条の場合に限られるとする否定説がある。
 これに対し創造説(原因行為が否認できない以上、対抗要件はその義務の履行であって財産の減少をもたらさないので、本来は否認できないはずであるが、特に164条がその要件を満たすような遅れた対抗要件具備行為を特に否認の対象とすることとしたとする説)からは、同条の要件を満たさない限り対抗要件の否認は認められないというのが当然の帰結となる。


NO34:停止条件付集合債権譲渡契約と否認権
【事案の概要】
AはYとの間で、AのYに対して負担する一切の債務の担保のため、Aの特定の第三債務者らに対する現在及び将来の売掛代金債権等をYに包括譲渡することとし、その債権の譲渡の発生時期は、Aにおいて、破産手続開始の申立がなされたとき、支払停止の状態に陥ったとき等の一定の事由が生じたとき、とする旨の契約を締結。
 その後Aが破産しXが管財人に選任。XはYに対して、本件債権譲渡契約に係る債権譲渡については162条1項に基づき、債権譲渡の通知については164条に基づき、否認権を行使し、Yが第三債務者から弁済として受領した金員の返還、未弁済の債権についてXに帰属することの確認を求めた。
 原審でY敗訴したため、Y上告。

【判 旨】:上告棄却
「160条1項の趣旨は、債務者に支払停止等があったとき以降の時期を債務者の財産的な危機時期とし、危機時機の到来後に行われた債務者による上記担保の供与等の行為をすべて否認の対象とすることにより、債権者間の平等および破産財団の充実を図ろうとするものである」
「支払停止等を停止条件とする債権譲渡契約はその契約締結自体は危機時期前に行われるものであるが、契約当事者はその契約に基づく債権譲渡の効力の発生を債務者の支払停止等の危機時期の到来にかからしめ、これを支払停止とすることにより、危機時期に至るまで債務者の責任財産に属していた債権を債務者の危機時期が到来するや直ちに当該債権者に帰属させることによって、これを責任財産から逸出させることをあらかじめ意図する」ものであって、係る契約は「破産法160条1項の実効性を失わせるものであって、その契約内容を実質的にみれば、上記契約に係る債権譲渡は、債務者に支払停止等の危機時機が到来した後に行われた債権譲渡と同視するべきものであり、上記規定に基づく否認権行使の対象となる」


35 執行行為の否認
【事案の概要】
Aの債権者Yは、Aに対して執行証書による貸金債権を有していた。
10月5日、Aが1回目の手形不渡り。
12月7日、Yが執行証書に基づき、Aが福岡市に対して有する請負代金債権の差押取立命令を取得、約1500万円を取得。
12月16日、A破産宣告、Xが破産管財人に就任。
XがYに対して否認権行使の訴えを提起。主位的にはYの行為は債務消滅に関する執行行為にあたる(165条、および旧72条2号故意否認)。予備的には、破産債権者を害することを知ってした執行行為にあたる(165条、および旧72条2号)と主張。
一審も原審も、否認権行使のためには、破産者の害意ある加功は要件ではないとしてXの請求認容。Y上告。
【判旨】 上告棄却。執行行為に基づく「債務の消滅に関する行為」の故意否認については、破産者の害意ある加功は必要でない。
【解 説】
・ 現行法は従来の故意否認・危機否認から、詐害行為否認(160条1項)・偏頗行為否認(162条1項)の区別になった。後者はさらに、担保の供与または債務の消滅に関する行為を除き、@時期を問わず詐害行為を対象にするもの(160条1項1号) A支払停止または開始申立て後の詐害行為を対象にするもの(同2号)に分かれる。
・ 現行法では、Aの詐害行為否認または偏頗行為否認につき、破産者の主観的要件が要求されていない→執行行為として行われる場合に、破産者の害意ある加功を要しない。


36 仮登記仮処分の否認
 不動産登記法上の仮登記仮処分命令を得てする仮登記は、仮登記権利者が単独で申請し、仮登記義務者は関与しないものであるが、これも164条の対抗要件具備行為の否認の対象となるか。(前提として本判例が引用する最判昭和40年3月9日によれば、「対抗要件充足行為は、破産者の行為またはこれと同視すべきものに限られる」とした。そこで本件仮登記仮処分が「破産者の行為…と同視すべきもの」に含まれるか。)
 仮登記は、それ自体で対抗要件を充足させるものではないが、本登記の際の順位を保全し、破産財団に対してもその効力を有するものであるから、仮登記も対抗要件を充足させる行為に準ずるものとして164条1項の対象となる。
 そして仮登記仮処分においても同様。なぜなら仮登記仮処分は、その効力において共同申請による仮登記と何ら異なるところはなく、否認権行使の対象とするにつき両者を区別して扱う合理的な理由はないこと、実際上も、仮登記仮処分命令は、仮登記義務者の処分意思が明確に認められる文書等が存するときに発令されるのが通例であることにかんがみると、仮登記仮処分命令に基づく仮登記も、破産者の行為があった場合と同視し、これに準じて否認することができるものと解するのが相当であるから。
 (因みに上記昭和40年判決では、破産者の行った債権譲渡についての債務者の承諾が否認の対象とならないとした。本件仮登記仮処分と債務者の承諾とで結論が異なることになるが、これにどう整合性をつけるかが問題として残る)


NO37:相殺と否認
【事案の概要】
 ZはY社の従業員だったが、Yを退職後に破産し、Xが管財人に選任。
Zは在職中、社内の住宅財形融資制度により低利且つ無担保で住宅資金を借り入れ、返済は給与から控除され、退職時は退職金で一括返済する約束だった。その約定どおりYは貸付金と退職金とを相殺処理。
 Zの破産管財人となったXが@Yの本件相殺による一括返済は賃金の直接・全額払いを定める労働基準法に違反する、A本件相殺は他の破産債権者を害するのでこれを否認する、としてYに一括払いを求めた。
 原審では本件相殺は否認の対象とならないとしてY勝訴したため、Xが上告。

【判 旨】:上告棄却
労働法上の争点は省略
「債権者の相殺権の行使は、債務者の破産宣告の前後を通じ、否認権行使の対象とはならないものと解すべきであるから、本件相殺におけるY社の相殺権の行使自体、否認権の対象とはならない」


38 否認の登記と転得者 ※大阪高裁判決
【事案の概要】
  破産者Aが、Bに対し本件建物を売却し、A→B所有権移転登記。しかし管財人Xが売買を否認、260条1項により否認の登記。
  しかしその後、B→Yへ売買、所有権移転登記がなされていた。
  そこでXはYに対し、所有権移転登記の抹消登記手続を請求。
  一審はXの請求認容。
【判旨】 Yの控訴を棄却。
  否認登記は、管財人を登記権利者、相手方を登記義務者とする暫定的な実質上の抹消登記であり、破産終結時において否認の効力が消滅して否認された登記を現状に回復する場合に抹消登記の回復登記によることを要しないよう、特殊の記入登記の形態をとる。すなわち、否認登記の記入により、登記簿上には相手方の所有名義が残存しているとはいえ、その実質において右所有名義は否定されており、爾後、相手方は登記義務者とはなり得ない。
【解 説】 否認権の行使によって破産者から受益者等に移転した財産権は当然に物権的に破産財団に復帰するが(167条1項)、その効力は破産財団との関係においてのみ相対的に生ずる。そこで否認の登記とは、各種登記(通常の移転登記や抹消登記)とは異なる登記が必要ではないかが問題となる。
特殊登記説(通説): 特別な登記が必要。
各種登記説: 通常の抹消登記でよい。否認の登記が残っていると、管財人が当該財産権を処分しようとしても、買受人が不安を抱き換価に支障を生ずる。
新法では、否認の登記がなされた目的物の任意売却等を原因とする移転登記の際に、登記官は、当該否認の登記を職権で抹消しなければならないと定め(260条2項)、換価が円滑に行われるよう配慮している。


39 弁済否認と連帯保証債務の復活
 債務者たる破産者が債権者に対し債務の弁済をした場合に、この弁済が破産管財人により否認され、その納付したものが破産財団に復帰したときは、貸金債権に付従していた連帯保証債務も復活するか。
 判例は、一旦消滅した連帯保証債務は当然復活すると解するのが相当であるとした。
 判例の当然復活説を前提とすると不都合な点が生起する。
 @例えば、債権者甲に弁済した破産者たる連帯債務者乙が連帯債務者丙に求償して丙が負担部分に応じて償還した後に、乙が破産手続開始決定を受けて弁済が否認された場合、当該連帯債務が復活すると、丙は乙に償還した上になお甲に対し全額弁済の責を負うことになり、苛酷かつ不合理である。これに対しては丙の償還部分が乙の財産に帰属する以上、否認の対象となるのは、破産財団に属する財産の価値が減少する限度、すなわち丙の償還部分を除いた部分と解すれば不都合性は回避できる。
 また、A物上保証の場合、破産者たる債務者の弁済によって担保権の登記が抹消された後に、当該不動産が第三者に譲渡されかつ登記された場合には、取引の安全の見地から担保権は復活しないと解すべきである。ただし、その場合、物上保証人は担保権の回復に代わる経済的利益を債権者に提供する義務を負うと解することで足りるであろう。

NO40:否認による価額償還
【事案の概要】
A社は破産宣告をうけXが管財人に選任。XはYがA所有のトラック1台を搬出しその所有権を失わせたので主位的に不法行為による損害賠償を請求する、仮にYがAに対する債権との相殺を意図してトラックの搬出をしたとしても予備的に破産法による否認権行使に基づく価額償還を求めた。
 原審では価額償還請求権の発生は肯定したものの、本件においてはその価額の立証がなされていないとしてX敗訴。そのためXが上告。

【判 旨】:破棄差戻し
「否認権行使の結果、元物の返還が不可能なためこれに代えてその価額を償還すべき場合には、その償還すべき金額は破産法167条の法意に照らし、否認権行使の時価を持って算出するべき」
「訴訟の経緯に照らすと、原審が本件価額償還請求権の発生を肯認しながら、Xに対し否認権行使時の時価の立証を促さないまま、その価額の立証がないとの理由で直ちにXの前記請求を排斥したことは著しく不相当な措置であるといわざるを得」ない。


posted by あひるねこ at 00:00| Comment(0) | とうさん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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