2009年07月01日

ぎょうせい100選 1〜10

1.健康保険事業の保険者の地位 昭和ハート
【事実の概要】
 A(個人)は、X(大阪市)の行う国民健康保険に加入したが、Xが、Aは市内に住所を有しないから被保険者たる資格がないとして、被保険者証の交付を拒否した。そこでAはY(大阪府国民健康保険審査会)に審査請求したところ、YはAが市内に住所を有することを認め、Xの処分を取り消した上、Aを被保険者とする裁決をなした。そこで、Xがこの裁決の取消を訴求。
 一審はXは保険事業を経営する権利義務の主体たる地位を有するなどとして、Xの原告適格を認め、Yの裁決を取消。2審はYの控訴を棄却。
【論点】 国民健康保険の保険者が、審査会のした裁決の取消訴訟を提起できるか。
【判旨】 原判決破棄、一審判決取消、本件訴え却下。
 国民健康保険は国の責務に属する行政事務。市町村等がこの事業を経営するのは、法の規定に基づくもの。そこで、都道府県には指導責任が課され(4条1項)、都道府県知事には強力な監督権があるなどする⇒事業主体としての保険者の地位を私保険における保険者の地位と同視することは相当ではない。もっぱら、国の命ずるところにより、国の事務である国民健康保険事業の実施という行政作用を担当する行政主体としての地位に立つ。
 事業の運営に関する法の建前と審査会による審査の性質から考えれば、保険給付等に関する処分の審査に関する限り、審査会と保険者は、一般的な上級行政庁とその指揮監督に服する下級行政庁と同様の関係に立ち、右処分の適否については審査会の裁決に優越的効力が認められ、保険者はこれによって拘束されるべきことが制度上予定されているとみるべき。
 ここで、保険者からの出訴を認めたのでは、審査会なる第三者機関を設けて処分の相手方の権利救済をより十分ならしめようとしたことが、かえって通常の行政不服審査の場合よりも権利救済を遅延させる結果をもたらし、制度の目的が没却されることになりかねない⇒保険者は、審査会のした裁決につき、その取消訴訟を提起する適格を有しない。


2  日本鉄道建設公団の地位  最判昭和53年12月8日野球
【事案の概要】
 Y(運輸大臣)が、全国新幹線整備法に基づき、日本鉄道建設公団に対し、成田新幹線の建設を指示。これを受けて鉄建公団は、Yに対し、工事実施計画の認可を申請、認可された(「本件認可」)。そこで新幹線通過予定地に土地を所有するXらが、本件認可の取消を求めて出訴。
 一審は、本件認可はYの公団に対する内部的な行為であり、国民の権利義務に何らの影響をも及ぼすものでないとして、行政処分にあたらないとした。
 原審は、公団は、実質的に国と一体をなすものとして、本件認可の処分性を否定。
【判旨】 上告棄却。
 本件認可は・・・承認の性質を有するもので、行政機関相互の行為と同視すべきものであり、行政行為として外部に対する効力を有するものではなく、また、これによって直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する効果を伴うものではないから、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたらないとした原審の判断は、正当として是認することができる。


3 診療報酬支払事務の委託病院 最判昭和48年12月20日
【事案の概要】
 Xは医師であるAに対し200万円の債権を有する債権者。Xは、AがY1(社会保険診療報酬支払基金)およびY2(東京都国民健康保険連合会)に対して有する診療報酬債権を差押え、転付命令を得た。これに基づき、XはY1及びY2に対して支払請求訴訟。
【論点】 Y1及びY2は、保険者から支払事務の委託を受けるものであるが、Aに対する支払義務を直接負うか否か。
 一審はXの請求を認容、原審はAは保険者に対して診療報酬債権を有するが、Y1、Y2に対しては直接債権を有しないとして、Xの請求棄却。
【判旨】 破棄差戻。
 「Y1が保険者等から診療報酬の支払い委託を受ける関係は公法上の契約関係であり、かつ、Y1が右委託を受けたときは、診療担当者に対し、その請求にかかる診療報酬につき、自ら審査したところに従い、自己の名において支払をする法律上の義務を負う者と解するのが相当」。
 Y2も公法人であるところ、Y2の有する権限はY1の基金法13条に基づく権限と全く類似するから、同条の規定を類推適用し、Y2も同様に支払義務を負う。


4 商工会議所への自治体職員派遣猫  最判平成10年4月24日
【事案の概要】
 茅ヶ崎市は、市の職員AをY2(茅ヶ崎商工会議所)に3年の予定で派遣した。その際Y1(市長)は、市職員の職務に専念する義務の特例に関する条例に基づき、1年間、職務専念義務を免除(職専免)。派遣期間(7ヶ月)の給与は、市から支払われた。
 そこで、住民らXは、Aに対する本件給与支出が違法であるとして、Y1に対しては損害賠償、Y2に対しては不当利得返還を請求する住民訴訟を提起した。
 一審は、支出を違法と認定。職務専念義務は地方公務員としての最も基本的な義務の一つであるとして、職専免による長期の派遣は、本件免除条例が予定するところではない。Y2は地方公共団体の行政組織に属さず、その公共性等を考慮しても、派遣は違法。⇒市の職務に従事しなかったことを正当化する根拠もない。
 原審は、Aの身分及び処遇の保障の観点から、市の職員としての身分をとどめ、かつ市が給与を支出する必要性があったとして、職専免はY1の裁量に委ねられており、裁量権の行使に逸脱・濫用があったとまではいえないとし、支出は違法ではないとした。
【判旨】 破棄差戻。
 市自身の事務に従事していない派遣職員に対し、給与全額を支給するためには、免除条例に基づく免除に加え、給与条例に定める勤務しないことについての適法な承認が必要。
 これら条例は、職専免や、勤務しないことについての承認について明示の要件を定めていないが、処分権者がこれを全く自由に行うことができるものではなく、職務専念義務の免除が服務の根本基準を定める地方公務員法30条や職務専念義務を定める同法35条の趣旨に違反したり、勤務しないことについての承認が給与の根本基準を定める同法24条の趣旨に違反する場合には、これらは違法になる。⇒違法かどうかを判断するには、給与支給が右各条項の趣旨に反しないものといえるかどうかを検討するのが相当。
 Y2の実際の業務内容がどのようなもので、それが市の商工業の振興策とどのような関連性を有していたのかなどの諸点について審理を尽くす必要。


5 自治体関連団体による博覧会の開催  最判平成16年7月13日
【事案の概要】
 名古屋市は平成元年に記念事業として世界デザイン博覧会を開催し、市長(Y1)が財団法人世界デザイン協会(Y4)会長に就任。副会長には助役が(Y2)、監事には収入役(Y3)がそれぞれ就任した。
 しかし、入場者数が下回り赤字が予想されたので、博覧会で使用した施設や物件を市に対して売却する契約が、Y4と市の間で締結され、10億3600万円が支払われた。しかし、代金額8000万円以上の契約は議会の議決が必要なため、契約を50個に分割して契約を締結。とはいえ結局後日、本会議で議決された。
 住民Xらは、公費濫用だとして、Y1〜Y4らに損害賠償を請求。
 一審は、民法108条の類推適用により契約は一部を除いて無効であるとして、一部認容。
 原審は、市議会の議決による追認があるとして、契約締結の一部に裁量権の逸脱・濫用があるとして、Y1・Y4に対し、Y4の残余財産2億1000万円の限度で損害賠償責任を認めた。
【判旨】 一部破棄自判、一部破棄差戻、一部上告棄却。
 まず民法108条、116条の類推適用により、議会による追認を認め、市に法律効果が帰属すると認定。
 さらに、「デザイン博は市の事業として行われたのであって、市は、Y4の設立に際し、Y4に市の基本的な計画の下でデザイン博の具体的な準備及び開催運営を行うことを委ねたものと解することも可能」として、「準委任的な関係が存したものと解する余地」があり、市がY4に対し補填を行うことは不合理ではなく、市にその法的義務が存するものと解する余地も否定できないとした。結局、市とY4との関係の実質、支出費用の内訳を検討しなければ、契約締結につき裁量権の逸脱・濫用があったとは判断できないとして差戻。


6 公務員の勤務関係 
【事案の概要】
 Xらはいわゆる現業一般職国家公務員たる郵政職員で、全逓信労組の地方支部役員であり、団体交渉を要求してA特定郵便局中に立入り、チラシ配布等の行為を行った。Y(郵政局長)は、Xらの行為は業務の正常な運営を妨げるもので、国家公務員法82条1項1〜3号に反するとして、Xらを懲戒処分に処した。Xは本件処分の取消しを求めて出訴。
【論点】
 Yは、国公法に基づいて行った懲戒処分は、人事院に対する審査請求が前置されており、法定期間が徒過したと主張。Xらは、本件処分が不当労働行為であることを理由とするから、審査請求は不要と主張。
 一審はYの主張を認めて訴え却下。原審はXの主張をほぼ認めて1審判決取消。
【判旨】 上告棄却(原審判決維持)。
 現業公務員の勤務関係も、基本的には公法的規律に服する公法上の関係。もっとも、現業公務員は、国が経営するものとはいえ、経済的活動を行う企業に従事するものであるし、さらに、右公務員に適用される公労法などからすると、その勤務関係は、国公法が全面的に適用されるいわゆる非現業の国家公務員のそれとは異なり、ある程度当事者の自治に委ねられている面があるが、右の面も、結局は国公法および人事院規則による強い制約のもとにあるから、これをもって現業公務員の勤務関係が基本的に公法上の関係であることを否定することはできない。


7 建築基準法65条と民法234条  最判平成元年9月19日
【事案の概要】
 Yがその所有地上に、境界線に近接した建物の建築に着手した。そこで隣接地所有者Xは、民法234条に違反するとして、Yに対し境界線から50センチ以内の部分の撤去を求めて訴え提起。Yは、所有地は準防火地域にあり、本件建物の外壁は耐火構造であるから、建築基準法65条により、隣地境界線に接して建築できると抗弁した。一審は、建基法65条により直ちに民法234条の適用が排除されるものではないとして、Xの請求認容。二審も同様。
【判旨】 原判決破棄、一審判決取消し、Xの請求棄却。
 建基法65条は、同条所定の建築物に限り、その建築については民法234条1項の規定の適用が排除される旨を定めたものと解するのが相当。


8 農地買収処分と民法177条  最大判昭和28年2月18日
【事案の概要】
 Xは戦前、訴外Aより農地(本件土地)を買い受け、代金支払・引渡しは済ませたが、移転登記はしなかった。農地改革の際、農地委員会は本件土地はAの所有であり、かつAは不在地主であると認定し、本件土地の買収計画を進めた。そこでXはY(県農地委員会)に異議申立て・訴願したが認容されず、Yの裁決の取消を求めて出訴。
 一審も原審もXの請求を認容。Yは民法177条の適用を主張して上告。
【判旨】 上告棄却。
 農地買収処分は、国家が権力的手段を以て農地の強制買上を行うものであって、対等の関係にある私人相互の経済取引を本旨とする民法上の売買とは、その本質を異にするものである。⇒農地買収処分の相手方は、単に登記簿の記載に依拠するのではなく、真実の農地の所有者。
 自創法の趣旨にかんがみても、文言(「…所有者とその農地との間に存する現実の事実関係にかからしめ…」)から推しても、同法の買収は真実の農地所有者について行うべき。
 大量的な行政処分である以上、登記簿等の記載に従って買収計画を定めることは是認せられるところではあるが、計画に対して真実の所有者が異議を述べるときは、農地委員会は事実を審査して、その真実の所有者の所在に従って買収計画を是正すべきものである。


9 租税滞納処分と民法177条  最判昭和35年3月31日
【事案の概要】
 XはA会社より土地を買受け、代金を支払った。登記は未了であったが、Xは魚津税務署長に対し、本件土地を自己の所有とする財産税の申告をし、これを納入していた。
 その後魚津税務署長がA社の租税滞納を理由に機械器具を差し押さえたが、A社代表は、本件土地の登記がなおA社に属することを奇貨として、税務署長に対し、本件土地を代わりに差し押さえるよう陳情、これが受け入れられた。そこで所轄の富山税務署長Y1は、本件土地を差し押さえ登記を経由、Y2に対しこれを競売した。Xは、Y1に対して本件公売処分の無効確認、Y2に対して所有権移転登記の抹消登記手続を求めて出訴。
 一審はX敗訴。二審は、Xの財産税申告の際、国はXを本件土地の所有者として取り扱ったので、国が登記の欠缺をもって本件土地に対するXの所有権を否定することは背信的行為にあたるとした。
 最高裁は、国が登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する第三者に当たらないというためには、原審の認定だけでは足りず、爾後Xの所有であることを前提として徴税を行う等、Xにおいて本件土地が税務署長からXの所有として取り扱わるべきことをさらに強く期待することがもっともと思われるような特段の事情がなければならない、とした。
 差戻後の二審ではX敗訴。
【判旨】 二審判決破棄、Xの請求認容。
 二審の認定により、@財産税申告書は、本件土地が実質はXの所有である旨特記していた、A税務署長はXの所有権取得を承認していた、BXはその後本件土地を訴外Bに賃貸し、徴税令書がAに送付されない様市役所に陳情し、Aへの令書をBが受取り、税金を代納していた、CそれまでXの所有に何人も異議を差し挟まなかった、D差押え後、Xは移転登記を経由し、滞納処分取消申請書をYに提出していたが、放置されていた、EA社の代表者の行為、が認定された。
これらの事実に着目して考察するときは、Xにおいて、本件土地が所轄税務署長からXの所有として取り扱わるべきことを強く期待することが、もっともと思われる事情があった。
【解説】 租税の強制徴収において、登記簿に基づき滞納者の財産差押える処分には、177条の適用がある。


10 自治体の金員借入と表見代理  最判昭和34年7月14日
【事案の概要】
 Y村の村議会は、一般会計の歳入調整のため、村が250万円以内の借入をなすことができる旨を決議。そこで村長は、書記を帯同して、X(青森県町村職員恩給組合)に50万円の借入を申入れ、組合はこれに応諾して金員を村長に交付した。しかし、弁済期に弁済がなされず、XがY村に対し支払を求めて出訴。
 一審は、@借入金の受領権限は収入役の専権に属するから、XとY村との間には消費貸借契約はない。しかし、A村長の金員受領行為は民法110条の権限踰越行為にあたる。B村長に金員受領権限がないことは、法律上困難な問題で、Xに調査義務は課すのは取引上妥当でないとして、Xが村長に受領の権限があると信ずるについては正当な理由があった、と判示し、Xの請求認容。原審も同様。
【判旨】 破棄差戻。
 普通地方公共団体の長自身が他よりの借入金を現実に受領した場合、民法110条の類推適用を認めるのが相当。
 しかし、村の現金出納事務は収入役に専属し、村長がその権限を有しないことは法令の規定上明らかである。単に、村長が書記を帯同し、村議会の決議書の抄本を示したという事実だけで、何ら特殊の事情の存在を判示することなく、たやすく、Xは、村長に受領権限ありと信じたことにつき正当な理由があると判断し110条を類推適用したのは失当。


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