2009年10月03日

とうさん100選21−30

21 破産財団の範囲−名誉毀損による慰謝料請求権
 破産開始決定後、破産終結決定前に国賠法による慰謝料請求をした場合、破産者は国賠請求訴訟の原告適格があるか。また訴訟提起によって慰謝料の行使上の一身専属性が失われ、慰謝料請求権も破産財団を構成し、債権者による差押えが可能となるか。
 名誉侵害を理由とする慰謝料請求権は、これを訴求するだけで行使上の一身専属性を失うものではなく、当事者間において支払うべき具体的な金額が客観的に確定した時、又はそれ以前でも被害者が死亡した時に、一身専属性を失い差押え可能となるに過ぎない。
 したがって、被害者(破産者)に対してそれ以前に破産開始決定がなされた場合には、右請求権は破産財団に属せず、破産者自身がこれに関する訴訟の当事者適格を有する。また右請求権は差押え禁止財産として破産財団から除かれる(34V(2))。


NO22:損害保険代理店の保険料専用口座の預金債権
【事案の概要】
 損害保険会社XはAとの間で損害保険代理店委託契約を締結(契約内容は、AはXを代理し保険契約の締結・保険料の収受・保険領収書の発行などの事務を行うもの)。
AはY信用金庫C支店に「X火災海上保険(株)代理店A(株)B」名義の普通預金口座を開設。これはAがXのために保険契約者から収受した保険料のみを入金する目的で開設されたもので、本件預金口座の通帳及び届出印はAが保管。
Aは2度の不渡りを出すことが確実となり、XのD支社長に本件預金口座の通帳及び届出印を交付した。
ところがYは同日、YのAに対する債権と本件預金債権とを相殺。一方、XはYに対して本件預金の払い戻しを請求。
原審は保険料の帰属について、実質的経済的利益はXが有していることを理由に、本件保険料の所有権はXにあるとする特段の事情があるとして、X勝訴。これに対してYが上告。

【判 旨】:破棄自判
 「Yとの間で普通預金契約を締結し手本権預金口座を開設したのはA。本件口座名義である『X火災海上保険(株)代理店A(株)B』が預金者としてAではなくXを表示しているとは認められないし、XがAにYとの間での普通預金契約締結の代理権を授与していた事情は…伺われない」「通帳及び届出印はAが保管しており…本件預金口座の管理者は名実ともにAであるというべき」である。また「金銭については占有と所有とが結合しているため、金銭の所有権は常に金銭の占有者に帰属」するため、「Xの代理権であるAが…収受した保険料の所有権は一旦Aに帰属」する。したがって「本件預金債権はXにではなくAに帰属するというべきである」。「Aが本件預金債権をAの他の財産と明確に区分して管理していたり…本件預金の目的や使途についてAとXとの間の契約によって制限が設けられ、…Xに交付されるべき金銭を一時入金しておくための専用口座であるという事情があるからといって、これらが金融機関であるYに対する関係で本件預金債権の帰属者の認定を左右する事情になるわけではない」「本件預金債権はXに帰属するとは認められない」

【解 説】
1, 本判例は、従来の民法における預金者認定で取られてきた客観説(預金原資の出捐者とする見解)を改説したのかどうか評価が分かれている。アペンディクス18事件(H15/6/12)でも同様の事件が取り上げられ、そこでは名義人に預金債権が帰属するとされており、客観説を放棄したと考えられるからである。
2, 本件で直接触れられていないが、保険会社による取戻権の行使が可能かどうか検討の余地がある。
 解説ではこの点、取戻権の基礎となる権利の存否が問題となるとして、三つの見解を挙げる。 
a説:問屋破産が株式の買い入れに当たり前払い金を受け取って株式を取得した後、これを委託者に引き渡す前に破産した事例で、委託契約の実行により問屋が取得した目的物品を問屋の一般債権者の責任財産として期待すべきではないとして、委託者の取戻権を認めた→この法理を保険代理店にそのまま用いる
〈批判〉取戻権の基礎としての明確な実体的権利が存するか問題が残る
b説:取り戻し権の基礎は、保険会社が専用口座の預金債権の譲渡を求めうる債権的請求権であるとの見解
〈批判〉取戻権の基礎となる債権的請求権であるためには、破産管財人の支配権を否定して、自己への引渡しを求める内容のものでなければならないが、この見解がそれに耐えられるか疑問。
c説:保険料債権を対象として、保険会社を委託者及び受益者、代理店を受託者とする信託関係の設定が認められれば信託法16条により対象財産が受託者の責任財産から外れ、保険会社が取戻権を行使できるとの見解。
〈批判〉保険会社から代理店への財産権の移転があると言えるかどうかの問題が未解決


23 支払停止 危機否認の要件
【事案の概要】 支払停止があったか否か、あったとすればどの時点かが問題となった事例。Aは資金繰りが苦しい個人。かねがねYより借金、A所有の土地建物に抵当権を設定。Yに対し印鑑証明、委任状等を交付していたが、Yいまだこれを登記せず。
8月、A→Yに追加融資を打診も断られ、ますます苦しく。9月末、A知り合いの弁護士Bに債務整理の方法等について相談したい旨電話。それを知ったY、Bに電話し、Aが破産の申立てをするのかと問い合わせるも、「まだ相談の段階で未定」との返答。10月8日、AB面談、15日に破産の申立てをする旨打ち合わせ。10月14日、Y前記抵当権を仮登記。15日A破産申立て、29日破産宣告、X管財人に。
X→Yに否認権行使。主位的に本件仮登記の原因行為を否認(162条1項2号・162条1項参照)、予備的に本件仮登記を否認(164条1項)し、否認登記手続を求める。
  一審はYは倒産の時期につき確たる知識なしとしてXの請求棄却。原審は10月8日AB間で破産申立ての方針を決めた時点を支払停止と認定し請求認容。
【判旨】 破棄差戻し。支払停止とは、債務者が資力欠乏のため債務の支払いをすることができないと考えその旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為をいうものと解すべき。債務者が弁護士との間で破産申立ての方針を決めただけでは、特段の事情のない限り、いまだ内部的に支払停止の方針を決めたにとどまり、債務の支払をすることができない旨を外部に表示する行為をしたとすることはできないというべき。


24 総破産債権の消滅と否認権の行使
 故意否認(160条)該当行為があった後、約10年を経た後に破産開始決定がなされた場合、管財人は否認権行使できるか。すなわち故意否認の制度は詐害行為取消権(民424条)と同趣旨と解されるところ、否認権行使の相手方は、総債権者の詐害行為取消権が消滅(民426)していることを理由に否認権行使の効果を否定できるか。
 破産債権は届出、調査、確定などの手続を経て確定されるものであるから、相手方において個々の債権の不存在を主張して、否認権行使の効果を否定することは破産手続の性格と相容れない。
 160条は、民法424条と同趣旨のものであるが、否認権は破産者の全財産を総債権者の公平な満足に充てる観点から破産管財人が行使するものであるから、176条の規定(否認権行使の除斥期間)は160条の否認についても適用があり、総破産債権者につき詐害行為取消権の消滅時効が完成したとしても、本条の期間が経過しない限り、否認権は消滅しない。


NO25:給与支払機関から共済組合への振込と否認
【事案の概要】
 T事件 
Y1はAに対して貸付金債権を有していたが、Aは破産宣告を待たずに退職。Aの退職手当金全額が地方公務員等共済組合法115条2項に基づき、破産宣告前に上記貸付金債務の弁済として、Y1の銀行口座に払い込まれた。その当時Y1はAの自己破産申立てないし支払停止を知っていた。破産宣告後、Aの破産管財人Xは給与支払期間が行った払い込みを否認し、Y1に対し、相当額の支払いを訴求。
 U事件
Y2はBに対して貸付金債権を有していたが、Bは破産宣告を待たずに退職。Bの退職手当金全額のうち貸付債権の残額に相当する額が、国家公務員等共済組合法101条2項に基づき、破産宣告前に上記貸付金債務の弁済として、Y2の銀行口座に払い込まれた。その当時Y2はBの自己破産申立てないし支払停止を知っていた。破産宣告後、Bの破産管財人Xは給与支払期間が行った払い込みを否認し、Y2に対し、相当額の支払いを訴求。

【判 旨】
判決T:「地共法115条2項は組合員から貸付金等を確実に回収し、もって組合の財源を確保する目的で設けられた」「右支払が他の債権に対して優先する旨の規定を欠くこと、『組合員に代わって』組合に払い込まなければならないとしている同条項の文言に照らしてみれば、この払い込みは組合に対する組合員の債務の弁済を代行するものに外ならなず」「破産手続き上他の一般破産債権に優先して組合員に対する貸付金債権の弁済を受けうることを同条項が規定したものと解することはできない」
判決U:「また、退職者に対し退職手当が支払われたことにより、退職手当請求債権は消滅し、既に支払われた金員について…民事執行法152条2項の適用はないから…右退職手当相当の金員は破産財団を構成するというべきであり、破産者が右退職手当をもって特定の債権者に対し債務を弁済した後、破産宣告を受けた場合に、その金額が退職手当の4分の3の範囲内であっても、その弁済は否認の対象となりうると解するのが相当」


26 借入金による弁済と否認
【事案の概要】 
 4月1日、A証券、顧客Yに対し国債売戻代金債務5億円を負担。
 しかし実はAは3月31日、すでに9億円の債務超過。4月18日営業停止、5月30日免許取消、事実上倒産。7月12日破産宣告、X管財人に。
 →ところが、この間の4月12日、AはN証券業協会等より、計5億円の融資を受け、これをYに支払っていた。つまり、AとNらの間で、投資者保護のため必要な場合に限り、特別融資を受けることのできる契約を締結。使途は投資者への返済に限定され、実際、Aは銀行で小切手をNらより受取り、その場でYに対しこれを支払った。
  そこでXは、AY間の弁済当時、Aは債務超過にあり、Aは本件弁済が他の債権者を害することを知っていたとして、162条1項1号の否認を主張、Yに対して弁済金利息の支払い請求。一審も原審もXの請求棄却、X上告。
【判旨】 上告棄却。
・ 借入前と弁済後で、破産者の積極財産の減少も消極財産の増加もない。
・ この借入れは、特定の債務の弁済に充てることを約定したもので、この約定をしなければ借入れがそもそもできなかった。しかも、銀行で即座にYに対して弁済されていて、Aにおいて他の使途に流用できる可能性もなかった。→そもそも、(Yへの)特定の債務の弁済に充てる以外の使途であれば借り入れることができなかったもので、破産債権者の共同担保となるのであれば破産者に帰属し得なかった財産である。
・ とすれば、この弁済は破産債権者の共同担保を減損するものではなく、破産債権者を害するものでないから、160条1項1号の否認の対象とならない。


27 不動産の適価売却と否認
 破産開始決定前に、唯一の財産である不動産を適正価格で売却することは否認権の対象となるか。
 この点、費消・隠匿しやすい金銭にかえることは、特段の事情がない限り、原則的に破産債権者に対する詐害行為に該当するが、その代金の大部分を被担保債権の弁済に充てた場合には、右売却はその部分については詐害性を有しない。
 弁済に充てられた分を超える限度については否認権の対象となり得るが、本件抵当不動産は不可分であるから否認権行使の効果として、(売却代金の約8割を弁済に充てた本件の場合)本件土地全部について否認権を行使することはできない。
 (尚、現在では161条が新設された。本件を161条にあてはめて検討してみると、8割を弁済に充てた事実は同条1項2号の「破産者が…隠匿等の処分をする意思」に該当しないとして、結局、結論は同じになると思われる)


NO28:代物弁済と否認
【事案の概要】
 Y社はA社に対して売掛代金債権を有していた。Aが手形の不渡りを出したため、Y社従業員がA社事務所からYの製品や他社製品を搬出。その後YはAの破産申立。Y従業員が搬出した製品についてはAのYに対する債務の代物弁済として示談が成立。Aの破産管財人Xは当該代物弁済を否認する旨主張。
 原審はYの動産先取特権が認められる部分については否認は否定したが、残部については否認を肯定。Xが上告。

【判 旨】:一部破棄・一部自判
「AがYに代物弁済に供した行為が、破産債権者を害する行為にあたらない旨の原判決の判断は、売買当時に比し代物弁済当時において当該物件の価格が増加したことは認められない旨の原判決の確定した事実関係の下においては正当」「破産債権者を害する行為とは、破産債権者の共同担保を減損させる行為であるところ、もともと前示物権は破産債権者の共同担保ではなかったものであり、右代物弁済によりYの債務は消滅に帰したからである」


29 動産売買先取特権の目的物を、転売先から取りもどしてする代物弁済と否認
【事案の概要】 Aは紳士服等卸業者。
  7月27日、Y→A、スーツ106着売買、弁済期9月の約定。その後A→Bに右スーツ50着転売。
  7月31日、A1回目の手形の不渡り。
  8月3日、ABY間で、AB間の右売買を解除、A→Yにそのスーツ50着を代物弁済として譲渡する旨合意、実行。これ以外にもA→Yにスーツ36着を代物弁済。
  8月24日A破産申立て、9月4日破産宣告、X管財人に。
  X、Yに対し、上記の各代物弁済を否認、スーツ売買代金相当の価額償還の訴え。
 一審: 36着→Yの動産売買先取特権の目的物として否認成立を否定。
    50着→AB間の合意解除は、実質的には義務がないのにYに対して担保供与となるとして、否認を認めた。
 原審: 50着→AB間の合意解除は、Aの一般財産を減少させる行為でない、動産先取特権の目的物であるとして、否認を否定し請求棄却。
【判旨】 破棄差戻し。
  50着→Aが転売契約を合意解除して取り戻した行為は、Yに対する関係では、法的に不可能であった担保権の行使を可能にすると言う意味において、実質的には新たな担保権の設定と同視しうる。そして、本件代物弁済は、50着をYに返還する意図の下に、転売契約の合意解除による50着の取戻しと一体として行われたものであり、支払停止後に義務無くして設定された担保権の目的物を、被担保債権の代物弁済に供する行為に等しいというべき。
  なおYは、Aの転売により転売代金債権につき物上代位権を取得している。しかし物上代位権の行使には制約があり、常に他の債権者に優先して行使しうるとはいえない。しかも、本件代物弁済の時点で弁済期も到来しておらず、Yが物上代位権を行使する余地もなかった。→代物弁済が他の債権者を害するかどうかの判断に際し、物上代位権の存在は問題とならない。


30 借入れのための担保権の設定と否認
 経営悪化した状態で破産者が追加融資を受けると共に新たに担保の設定をした場合に、否認権の対象となるか。
 資産状態の悪化した債務者が、既存債務のため特定の債権者に担保を提供する行為は、他の一般債権者の利益を害することになるので、後に債務者が破産開始決定を受けた場合、162条に基づく否認権行使の対象とされるのは当然であるが、右債務者があくまで事業の継続を図り、これを前提として緊急の支払資金を得べく他から借入れをなし、これに担保を提供する行為は借入額と担保物件の価格との間に合理的均衡が保たれている限り、一般債権者の利益を害するものではなく、したがって前記法条に基づく否認権行使の対象とはならないものと解せられる。
 (尚、現在では162条1項柱書括弧書きで、緊急融資に担保が設定された場合のいわゆる同時交換行為は偏波行為の否認の対象から除外することが明文化されている)


posted by あひるねこ at 00:00| とうさん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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