1.
事項 定義
令状主義:根拠条文、意義 憲法33条、憲法35条。
裁判官の令状がなければ逮捕されず、また、住居・書類および所持品について侵入捜索および押収されない旨を保障している。この原則を令状主義という。意義⇒@司法権による、A事前の、B個別具体的なチェック。
令状主義の例外 @ 現行犯逮捕(憲法33条、法213条)
A 逮捕現場での捜索・差押え(憲法35条、法220条)
B 裁判所の為す公判廷内における捜索・差押え
C 裁判所の為す検証
2.捜査の端緒
事項 定義
行政警察活動とは 個人の生命等の保護、犯罪の予防・鎮圧、公安の維持という、行政目的を達成するための警察活動
司法警察活動とは 犯罪の証拠の収集や保全などのための司法目的を達成するための警察活動
職務質問における有形力の行使の許容範囲 職務質問は、警職法2条1項で定められた、行政警察活動である。任意捜査ではあるが、捜査の端緒として実効性のあるものとするためには、一定の範囲内で有形力の行使が認められるべきである。
そこで、行政目的達成の必要性と、人権保障の調和の観点から、強制手段にあたらない有形力の行使は、必要性が認められる場合には、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されると考える。任意捜査の限界である以上、疑われている犯罪の大小、嫌疑の強弱、質問に必要性の大小等をも併せ総合して判断すべきである。
所持品検査の根拠規定は。
許容範囲は。
具体な許容性判断の方法は。 警職法2条1項の職務質問の規定
所持品検査は任意手段たる職務質問の付随行為であり、あくまでも所持人の承諾を得て行うのが原則。
しかし、一定の場合には承諾がなくても所持品検査を認める必要性がある⇒行政目的達成と人権保障の調和の観点から、捜索に至らない程度の行為は強制にわたらない限り許容される場合があると考えられる。
具体的には、所持品検査の必要性と緊急性、これにより侵害される個人の法益と保護される公共の利益との権衝等を考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる場合のみ許される。
判例は。 米子銀行事件⇒所持品検査は許される場合がある。必要性、緊急性、相当性を個別具体的に判断すべき。
強制捜査とは何か。任意捜査と強制捜査の区別基準は。 197条1項は、強制捜査(強制の処分)は法の定めのある場合でなければできない旨を定め、強制処分法定主義を規定している。
では強制の処分とは何か。この点、「物理的な強制力を加える場合、および観念的な義務を課す場合」、一般的に「個人の権利・法益を侵害する場合」をいうとする説もあるが、捜査は、物理的な強制力を一切排除すると実効性がなくなるおそれがあるし、また、多かれ少なかれ相手の権利・利益を制約する面があることは否めず、妥当でない。
よって、物理力によると否とを問わず、同意を得ないで個人の重要な権利・法益を侵犯する場合が「強制の処分」にあたると考える。
任意捜査における有形力行使の可否
許容される場合の判断基準4つ 判例:個人の意思を制圧し、個人の法益に制約を加える捜査方法で、法的根拠を必要とするものが強制捜査である。よって、その程度に至らない有形力の行使は、任意捜査においても許容される場合がある。
⇒結局、@被疑者の同意の程度・範囲、A被疑者の利益侵害の種類・程度、B事案の重大性・嫌疑の強さ、C当該捜査の必要性・緊急性の総合的考慮。
任意同行の限界とは 警職法2条2項。しかしこの場合の任意同行は任意処分として行われるものだから、強制に至った場合には実質的には逮捕と同視できる。よって、その時点から刑事訴訟法の身体拘束に関する制限時間が開始することになる(203条・205条)
(交通違反の)自動車検問の根拠条文は。
要件は。 警職法2条1項。
あくまで任意処分。広範に認めてしまうと運転者の自由な行動を不当に制限することになりかねない。自動車検問の必要性と人権保障の要請との合理的調和の観点から、以下の要件が必要⇒@交通違反の多発する地域において、A短時間の停止を求め、B相手方の任意の協力を求める形で行われ、C自動車利用者の自由を不当に制約しない方法・態様で行われること。
3.逮捕
事項 定義
逮捕の要件は。
@通常逮捕(199条1項) ・嫌疑の相当性(被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由)(199条1項)=逮捕の理由
・逮捕の必要性(199条2項但)。被疑者が逃走するおそれがなく、かつ罪証隠滅のおそれがないときには、逮捕状の請求は却下されるべき。
逮捕の必要があるかどうか不明の場合はどうするか。 199条2項但書は、「明らかに逮捕の必要性がないときは逮捕状を発しないことができる」旨定めているから、不明の場合は逮捕状を発付することになる。
逮捕の要件は。
A現行犯逮捕(213条) 現に罪を行い、または行い終わった者(212条1項)。令状主義の例外にあたる(憲法33条)。
現行犯逮捕においても逮捕の必要性が要求されるか。 明文上必要性を要求する規定はない。しかし、現行犯逮捕を他の逮捕と区別する合理的理由はないから、必要性も要する。判例に同旨(タクシー運転手が踏切立入で捕まった事件)
逮捕の要件は。
B緊急逮捕(210条) 重大な罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。
要件:@嫌疑の充分性、A逮捕の緊急性、B犯罪の重大性
緊急逮捕の合憲性 緊急逮捕は必要である。憲法33条は令状主義の例外を認めている。現行犯逮捕以外はすべて逮捕状を得てからでないと逮捕できないことになると、重大な事件の被疑者をみすみす取り逃がすおそれもある。人権保障の観点との均衡から、逮捕後「直ちに」逮捕状を請求しなければならない旨定められているのであるから、司法のチェックは事後的にせよ、早い段階で入ることになる。
勾留の種類(2種類) 起訴前勾留(被疑者勾留)、起訴後勾留(被告人勾留)
(起訴前)勾留の理由 207条1項⇒60条1項。
罪を犯した個を疑うに足りる相当な理由⇒すなわち嫌疑
ほか、住所不定・罪証隠滅のおそれ・逃亡のおそれ いずれか1つ必要
逮捕前置主義 被疑者の勾留は専攻する逮捕を前提としてのみ許される、とする原則。
逮捕前置主義の根拠 207条1項⇒「前3条の規定による」⇒204〜6条はすべて逮捕が前にある場合を定めている
事件単位の原則とは 逮捕・勾留の効果は、逮捕・勾留の基礎となっている被疑事実にのみ及ぶ。
A罪で逮捕して、A罪およびB罪で勾留することが認められるか。 形式的に考えると、B罪については逮捕前置主義に反する。
しかし、A罪について逮捕前置主義が守られている限り、B罪についてはむしろ逮捕期間が短縮されるわけであるから、このような勾留は認められると考える。
被疑者はすでにA罪で勾留されている以上、B事実を付加したからといって格別不利益になるともいえない。
先行した逮捕手続が違法な場合の勾留 逮捕前置主義はあくまで適正な逮捕を前提としているので、違法な逮捕に基づく勾留請求は原則として却下すべき。
@ 逮捕手続が違法⇒本来ならその時点で釈放されるべき
A 逮捕に対しては準抗告が認められていないので、勾留請求の許否を決する勾留裁判がその機能を果たすべき
別件逮捕・勾留とは。 本件(A罪)について逮捕・勾留の要件を具備していないのに、その取調べに利用する目的に、逮捕・勾留の要件を具備している別件(B罪)についてことさらに行われる逮捕・勾留。
別件逮捕の問題点を5つ挙げよ。 @ 令状主義の潜脱
A 事件単位の原則に反する
B 自白の獲得(取調べ)を目的とした見込み捜査を許容することになる
C 逮捕・勾留期間の脱法的な延長を認めることになる
D 別件逮捕下での供述が証拠となるか問題
本件基準説とは 本件について令状審査が実質的に行われているかどうかを問題とする。よって、実質的には別件逮捕は違法に近くなる。
どのような場合に「違法な」別件逮捕と判断されるのか。
判断基準は。 結局は、別件で逮捕した場合に、本件についての取調べがどこまで許されるか、による。別件での逮捕・勾留でありながら、実質的には本件の取調べを目的としているような場合には、当初から違法目的の別件逮捕・勾留であったと認定されざるを得ない。
⇒判断基準@本件についての捜査状況、A別件についての逮捕・勾留の必要性の程度、B別件と本件との関連性・軽重の差、C身体拘束後の取調べ状況
捜索とは(定義) 一定の場所・物・または人の身体について、物または人の発見を目的として行われる強制処分(218条・219条)
差押えとは(定義) 他人の占有を排除して占有を取得する強制処分(218条・219条)
領置とは(定義) 遺留品又は任意提出物に対する占有取得(任意)(221条)
令状記載の目的物の範囲 捜索するより前に差押え対象物を詳細に把握することは困難であり、記載が多少概括的なものとなることは避けられない。
フロッピーディスクを内容を確認することなく100枚差し押さえた場合の問題点は。 令状の記載の特定性。
本来であれば、その内容を確認し、必要な物についてのみ差し押さえることが望ましいことはいうまでもない。しかし、大量のフロッピーディスクの中身を捜査機関が自らその場で確認することには、技術的・時間的な問題があるし、またその場で確認していたのでは記録された情報を損壊される危険がある。そのような場合には、犯罪と関係ないもの等を含めて包括的に100枚の差押えをすることも許される。
場所に対する令状によって物または人の身体を捜索しうるか 219条は、捜索対象として、「捜索すべき場所、身体若しくは物」として、場所、身体、物を明確に区別している。また、人格を有する人の体と場所とは当然に差があり、捜索によって侵害される利益にも差があり得るから、当然に可能とすることは妥当でない。しかし、居合わせた者が差押えの目的物を身体に隠した蓋然性がある、等の事情がある場合にまで一切許されないとするのでは捜査の必要性の見地より妥当性を欠く。
そこで、@捜索の目的物を所持していると疑うに足りる充分な状況があり、Aかつ直ちに目的物を確保する必要性と緊急性がある場合には、ある程度の身体捜索は「必要な処分」(222条1項、111条1項)として許される。(着衣のまま外部から確認する程度。体内捜索はさすがにムリ)
なお携帯物に関しては、その場で携帯しているかその場所に置かれているかは偶然の事情にすぎないし、捜索場所にある物と同視できる場合は当然に許される。
うそをついて玄関扉を開けさせる行為の適法性 法は捜索・差押えの執行にともない、執行に必要不可欠な事前の行為をすることを許容している(111条)。⇒錠や扉の開扉・破壊も可能。
ごく短時間で証拠隠滅ができる薬物犯罪において、捜索に許否的態度を取るおそれのある相手方であって、その住居の玄関扉等に施錠している場合は、そもそも正直に来意を告げれば、素直に開扉することが期待できない場合もあり、開扉をめぐっての押し問答等をしている間に証拠を隠滅される危険性がある。このような場合、捜査官は、証拠隠滅工作の余地を与えず、かつ、できるだけ妨害を受けずに円滑に捜索予定の住居内に入って捜索着手でき、かつ捜索処分を受ける者の権利を損なうことがなるべく少ないような社会的に相当な手段方法をとることが要請され、法は、111条の「必要な処分」としてこれを許容しているものと解される(判例に同旨)
令状提示前に部屋の内部に立ち入る行為 短時間で容易に証拠を隠滅できる場合、その準備行為ないし現場保存的行為として必要があるときは、令状を呈示する前に室内に立ち入ることは、社会的に許容される範囲のものと認められる(判例に同旨)。ただし、なるべく早期に令状呈示を行うべきである。
令状なしの捜索・差押え⇒逮捕の現場(220条)
何故許されるのか。 @ 逮捕事実に関する資料を緊急に収集・保全する必要性
A 逮捕者に危険を及ぼす武器等を押収することにより、逮捕を円滑に遂行する必要性
220条の「逮捕する場合」とは 現に被疑者を逮捕する状況の存在が要求される。ただし、必ずしも逮捕に成功した場合を意味するのではなく、逮捕に着手したという状況があれば足りる。(「逮捕が予定されていれば足りる」とする説もあるが、法が強制処分における令状主義を定めているため、令状を必要としない強制処分はあくまで例外であり、そこまで範囲を広げてしまうのは人権保障の見地からも妥当でない。)
身体拘束された被疑者の取調べ受忍義務の肯否 198条1項の解釈が問題となる。
受忍義務肯定説⇒
・ 198条1項但書を反対解釈すれば、すでに逮捕又は勾留されている被疑者については、出頭を拒むことができず、受忍義務があると解せる。
・ 逮捕・勾留されている被疑者については、すでに犯罪の嫌疑がある(199条)のであり、身体拘束中の取調べの有用性・必要性がある。
・ 198条2項にのっとり、供述拒否権を告知したうえでの取調べであれば、被疑者の黙秘権は害されない。
私見⇒取調べにつき一切の受忍義務がないというのであれば、捜査に影響がある。黙秘権が行使されうるのは実質上公判廷においてのみということになる。
余罪取調べをすることはできるか。 否定。取調べの対象は、逮捕の基礎となる事件に限定される。もっとも、@本件と密接に関連するとか同種余罪である等、逮捕・勾留の基礎となった事実の取調べとしても重要な意味を持つ場合や、A受忍義務のないことが明瞭な、純粋の任意捜査として行われる場合は、例外として認められうる。
接見指定の可否 39条3項⇒捜査のため必要があるときは、控訴の提起前に限り、接見の日時、場所、および時間を指定することができる。
⇒弁護人をつけること=憲法上の権利でもある。
⇒現に被疑者を取調中であるとか、実況見分、検証等に立ち会わせる必要がある等、捜査の中断による支障が顕著な場合に限られる。(取調べの予定がある、等は、客観的に判断することが不可能であるから許されない)。
被告人の取調べ 当事者対等主義、公判中心主義からも、198条の取調べはあくまで被疑者に限られるべき。被告人が自ら供述することを求め、これに弁護人が立ち会うなど、被告人の当事者主義的地位に反しない、名実ともに任意処分である場合にのみ、例外的に認められる。公判廷では弁護人立会の下に審判を受ける権利があるから、同等の保障が必要。
4.公訴
事項 定義
国家訴追主義とは 控訴は、検察官がこれを行う(247条)
⇒私人による訴追は許されない。
起訴独占主義とは 検察官のみが公訴提起を行う権限を有している。
起訴便宜主義とは。
対する概念は。 検察官が訴追の必要がないと判断した場合に、裁量により不起訴とできること。248条。←→起訴法定主義(恣意を排除)
起訴便宜主義の根拠を3つ挙げよ。 @ 被疑者に対する刑事政策的な配慮(被疑者の更正を期待する等)
A 被害者その他の市民の意思を考慮(示談がすでに成立している等)
B 訴訟経済的考慮(監獄費用・司法の負担軽減)
一罪の一部起訴 (追補要)
訴因とは 訴因とは、起訴状に記載された具体的犯罪事実であり、審判対象たる事実。被告人の防御の範囲を明らかにする機能を有する。
訴因の特定
特定されているか否かの判断基準は。 256条3項⇒できる限り日時、場所、方法をもって特定しなければならない。
@被告人の防御への支障の有無・程度、A犯罪の種類・性質、B特定が困難な特段の事情の有無等、を考慮して個別に判断すべき。
起訴状一本主義 256条1項。公訴の提起は起訴状を提出して行う。
予断排除の原則 256条6項。起訴と同時に一切の捜査書類と証拠物とが裁判所に提出されるのでは、裁判官が捜査官の心証を引き継ぐものといえる。裁判官が公判開始前から一定の心証をもっていたのでは、被告人に不利であり不公正であって、当事者主義にも反する。
また、280条1項で公判開始前の勾留に関する処分は公判に関与すべき裁判官以外が行うなどして、予断排除のための規則を定めている。
余事記載 (追補要)
訴因とは何か。
訴因の機能は。 検察官の主張する具体的な事実(=事実記載説)。反対説は法律構成説。
審判対象の範囲の画定と、被告人の防御権の保障(不意打ち防止)
訴因対象説から⇒訴因を逸脱した事実認定は可能か 訴因事実そのものが審判対象となるから、訴因を逸脱した事実認定は審判対象を逸脱した事実認定ということとなり、このような重大な違法は絶対的控訴理由となる(378条3号)。⇒不告不理の原則に反する
訴因変更の要否とは 訴因変更をしない場合、裁判所は無罪判決をしなければならないのかどうかの問題。⇒起訴状記載の事実と、認定事実との間にどの程度の齟齬がある場合に必要なのか。
訴因変更の可否 訴因変更できない場合は別訴提起、訴因変更できる場合はその手続の中で新訴因について有罪認定することが許される、という問題。
訴因変更の要否⇒
訴因変更が必要な「事実の変更」とはどのような場合か。 審判対象の範囲を画定するのに不可欠なものは、被告人の防御にとっても重要な事項であるから、その変更には訴因変更手続を必要とする。
防御上の不利益がある場合。⇒実質的に防御に不利益が生じない場合は訴因変更の必要はない。具体的には、一般的抽象的に、そのような事実の変更があれば通常は被告人の防御に不利益を及ぼすと考えられる場合には訴因変更が必要。さらに、個別事案に即応した具体的な防御上の不利益の有無をも検討すべき(=抽象的防御説)。反対説は具体的防御説(防御上具体的不利益が生じる場合に限り訴因変更を必要とする)
訴因変更の可否⇒
訴因変更は「公訴事実の同一性を害しない限度において」許される(312条1項)。ではいかなる場合に公訴事実の同一性があるといえるのか。 判例(基本的事実同一説)⇒社会的事実の重なり合いによって判断される。既判力の及ぶ範囲と防御の範囲を中心とした利益の調整の上に立ち、1回の裁判で裁きうる範囲を実質的に判断する以上、事実の共通性によって具体的に判断せざるを得ない。
基本的事実の重なり合いの判断に際しては、基本的事実に近接性、関連性、共通性が認められれば、公訴事実の同一性があるといえる。
しかし、特に事実関係に重なり合いが無い場合は、一方の事実は認められる場合は他方の事実は認められないという、両訴因の非両立性の関係がある場合は、公訴事実の同一性が認められると考える。2つの訴因が重なっていればいるほど2つの犯罪の同時併存は不可能となるからである。
※訴因共通説⇒訴因相互がその重要部分においてどれだけ重なっているかによって判断する。犯罪を構成する主要な要素は「行為」と「結果」であり、そのいずれかが共通であれば公訴事実は同一である。
公訴事実の単一性とは。
例は。 公訴事実が1個であること、すなわち犯罪事実が1個であること。
⇒窃盗の起訴の際に…@殺人の追加⇒併合罪の関係にあり、公訴事実の単一性は認められない。…A住居侵入の追加⇒科刑上一罪の関係にあるから単一性あり。
事実には変化が無く、罪数評価に変化があった場合の処理は。 訴因補正説⇒訴因の補正の問題として処理する。
ただ訴因の補正という明文の規定はないので、実際には訴因変更手続を要する。
事実に変化があって、罪数評価にも変化があった場合は。 訴因変更が必要。事実に変化があるわけだから。
訴因変更命令の意義は 実体的真実発見の要請(1条)。312条2項。当事者主義の原則のもとではあくまで例外的措置。
訴因変更命令の義務はあるか 当事者主義から、原則として義務まではない。しかし、証拠上明白で事案が重大な場合、実体的真実発見の要請とのバランスからしても、例外的に義務が存する場合がありうる。
訴因変更命令に形成力はあるか 形成力はない(訴因対象説より)。検察官が命令に従わないときにも訴因が変更するものとすることは、裁判所に直接訴因を動かす権限を認めることになり、妥当ではない。判例に同旨。
(残りぶっとばし)
5.公判
事項 定義
公判中心主義とは 刑事手続きの中においては公判手続きが最も重要かつ中心的な位置を占める。43条1項判決、282条1項取調、303条公判準備の結果と証拠の取調べ
その他公判を充実させるための諸原則を4つ挙げよ。根拠条文も。 @ 公開主義 憲法82条1項、同37条1項。刑訴377条3号。
A 口頭主義・弁論主義 刑訴43条1項。
B 継続審理主義・集中審理主義 継続審理の要請
証拠開示とは 当事者が手持ちの証拠について、相手方にその内容を明らかにすること。40条、299条、300条
証拠開示の必要性 当事者主義とはいえ、検察官側と被告人側とでは情報に大きな差がある。被告人側に充分な防御の機会を保障し、実質的当事者対等を実現するという観点からは証拠開示が不可欠となる。
証拠開示命令の時機 (追補)
証拠の意義と種類 事実認定は証拠による(317条)。
被供述証拠、供述証拠がある
証拠方法とは。
証拠資料とは。 証拠方法:事実認定の素材となる人又は物。
証拠資料:証拠方法を吟味して得られた内容。
証明力とは。
証拠能力とは。 証明力: 事実を認定させるための証拠の価値。
証拠能力: 一定の資料が証拠となりうる資格
不要証事実の例は。 公知の事実:歴史、社会的事件
裁判所に顕著な事実: 裁判所が職務上知り得た事実
法律上推定された事実
厳格な証明とは。
自由な証明とは。
適正な証明とは。 厳格な証明:適式な証拠調べを経た証拠による証明
自由な証明:厳格な証明によるという制約のない証明
適正な証明:証拠を相手方に示して反証の機会を与えるためにも、証拠調べの必要な場合。
厳格な証明と自由な証明の区別は。 刑罰権の存否および範囲を画する事実については厳格な証明が必要であるが、その他は自由な証明で足りる。
自由心証主義とは 318条。証拠の証明力は、裁判官の自由な判断に委ねる。←→法定証拠主義
心証の程度は。 合理的な疑いを超える程度の確信。
自由心証主義の合理性を担保するための制度 @ 制度的担保 除斥・忌避・回避、合議制、公開主義、鑑定
A 間接的担保 証拠能力の制限、有罪判決に理由を記載する制度(355条1項)、当事者主義的諸制度(起訴状一本主義、訴因制度)
B 事後的担保 上訴、上告、再審
自由心証主義の例外 補強法則、公判調書の証明力等
挙証責任とは。
刑訴での原則は。 証明の必要がある事実について、取り調べられた証拠によって存否がいずれとも判断できなかった場合に不利益な認定を受ける当事者の地位。
刑訴では「疑わしきは被告人の利益に」で検察官が負担する。
証拠能力が認められるための要件3つ。 証拠能力:犯罪事実認定の資料となりうる資格。
@自然的関連性 A法律的関連性 B証拠禁止にあたらない
自白とは。
自白法則とは。 自白:自己の犯罪事実の全部またはその主要部分を認める被告人の供述
自白法則:強制的要素の加わった可能性のある自白=任意性を欠く疑いのある自白を排除する原則
自白法則の根拠は。 虚偽排除説:虚偽であることの危険性がある
人権擁護説:黙秘権等の被告人の人権を守るため
違法排除説:違法な手段の下に獲得された自白は排除
「不当に長い」勾留又は拘禁かどうかの判断基準 犯罪の罪質、重大性、勾留の必要性等の客観的事情、年齢、性格、健康状態等被疑者固有の事情を総合して判断。
補強法則とは。
その根拠は。 補強法則:自白しか証拠が無い場合は有罪としえない。
自由心証主義の唯一の例外。第三者の供述であれば反対尋問の機会があるが、自白にはその機会がない。
補強の範囲 犯罪事実についてであり、それ以外の事実については補強証拠を必要としない。どの部分に補強証拠を必要とするかについては刑訴法等に定めがあるわけではない。自白にかかる事実の真実性を担保するに足りる補強証拠があれば足りる。
補強証拠適格の2つの要件 @証拠能力があり、A被告人の自白から独立していること。補強証拠も犯罪事実認定のための実質証拠である。
取引の事実を記載した商業帳簿を補強証拠とすることができるか できる。商業帳簿は、取引のつどその事実を記載するもので、その記載は機械的であり、また客観的事実に照応するものである。また、法323条2号により、嫌疑を受ける前に、嫌疑と関係なしに作成されたような商業帳簿の場合は、自白から独立した証拠価値がある。
共犯者の自白だけで、本人を有罪とできるか。 できる。共犯者の自白によって、被告人を有罪とするときには補強証拠は不要。
@ 本人にとっては第三者の供述である
A 補強法則は、自由心証主義の唯一の例外であり、安易に拡張して解釈すべきではない
B 巻き込みの危険に関しては、実務的にはあまり考えられない(岡田)
伝聞証拠とは。
伝聞法則とは。 反対尋問を経ていない供述証拠(伝聞証拠)
反対尋問を経ていない供述証拠は、原則として証拠になり得ない。320条1項。
伝聞排除の根拠は 供述証拠は、知覚⇒記憶⇒表現のそれぞれの段階で誤りが入り込む危険があり、人間の記憶に頼らない非供述証拠とは異なる。よって、反対尋問による真実性のチェックを行うことが必要である。なお、被告人の反対尋問権は憲法上の権利でもある(37条2項)。
伝聞法則の例外とは。それを認める根拠は。 伝聞書面⇒ 321条 被告人以外の者の供述書および供述調書、
322条 被告人の供述代用書面。根拠は、証拠としての必要性が高く、かつ、真実性担保にとって反対尋問に変わる信用性の情況的保障があれば、例外的に証拠能力を認める。また、当事者が同意・合意した場合は、反対尋問権を放棄したと認められるから、証拠能力を認めてよい。
321条1項で伝聞法則の例外を認める要件を4つ。 @供述の再現不能、A供述の相反性、B不可欠性、C特信性
裁判官面前調書 321条1項1号。供述不能 もしくは 供述相反性
検面調書 321条1項2号。供述不能 もしくは 供述相反性および特信性
他の供述録取書・供述書 321条1項3号。供述不能、不可欠性、特信性のすべて
検面調書に必要な特信性とは 相対的特信情況。検察官の面前における供述の際の情況と、公判準備もしくは公判期日における供述の際の情況を比較し、後者の情況が信用できるかということ。
被告人以外の者の、公判準備における供述を録取した書面とは。 証人・鑑定人等を公判期日外で尋問した場合に作成される尋問調書等。281条・158条。303条参照。
被告人以外の者の、公判期日における供述を録取した書面の証拠能力は。 そもそも、公判期日における証人・鑑定人等の供述は伝聞証拠ではないから、供述そのものが当然に証拠になる。
これを録取した書面が証拠となる場合とは、公判手続の更新がある場合等(破棄差し戻しや移送の後の更新も含む)があれば、それ以前の手続の公判調書中の証人・鑑定人の供述部分が「公判期日における供述を録取した書面」にあたる。
公判の供述と矛盾するその者の公判外の供述の証拠能力(41年@) 公判外の供述を証拠とする場合⇒供述書か供述録取書か。
どのような情況で作られたかで場合分けしなければならない。
裁面調書であれば、供述相反性があるだけで証拠能力あり。
検面調書であれば、供述相反性に加え、特信性が必要。
その他の書面であれば、供述相反性にかかわらず、供述不能、不可欠性、特信性のすべてが必要。
証人が公判廷での証言を拒絶した場合の検面調書の証拠能力は。 証拠能力が認められる。裁判所に証人として喚問されながらその証言を拒絶した場合であっても、被告人に反対尋問の機会が与えられないという点では死亡等の場合と変わらない。「国外にいる場合」ですら、例外として認められるのであるから、事実上の証言拒絶であっても、供述不能の場合にあたり、検面調書の証拠能力が認められる。判例に同旨。
検察官が捜査段階において被告人の承諾を得てその自白を録音したテープは証拠とすることができるか。@犯罪事実の立証に供する時 A被告人の捜査段階における自白の任意性の立証に供する時(62年A) 追補
捜査機関から鑑定の嘱託を受けた者の作成した鑑定書に321条4項を準用できるか。 321条4項⇒裁判官の命じた鑑定人による鑑定。鑑定は、専門性を有する特別の知識経験のある者だけが認識しうる法則又は事実の供述であるから、通常その内容は相当の正確性を有する。
捜査機関から鑑定の嘱託を受けた鑑定受託者の作成した鑑定書も、裁判官の命じた鑑定人の場合に比して人選の公正さ、宣誓の有無等において相違があるものの、鑑定の性質としては本質的に異なるところがないから、本項を準用しうる。
実況見分調書は321条3項の書面に含まれるか。 実況見聞調書とは、捜査機関が任意処分として行う検証の結果を記載した書面である。これは書面の性質としては検証調書と変わるところがないから、本項所定の書面に含まれる。令状のあることによって事実の認識の正確性が高まるわけではない。
共同被告人とは 共同被告人:併合審理を受けている複数の被告人のこと。
併合審理のメリットは。 訴訟経済に資する。事実の合一画定を図ることができる。量刑のバランスも図れる。
被告人甲・乙が共謀共同正犯として共同審理を受けている。甲が乙と共謀した事実を立証するため、甲に対する関係での乙の供述を証拠として用いるにはどのような方法があるか。各々の問題点は。(5年A) @ 乙が公判廷で「証人」となる場合
・ 不可。乙を共同被告人のまま「証人」という立場にすることはできない。被告人は第三者と異なり黙秘権があり、供述義務がない。同一手続内で被告人と証人という相容れない立場に同一人を置くのは相当でないから、弁論を分離して甲の公判では第三者の立場にする必要がある。
⇒ 甲と乙の弁論を分離して、甲の公判では乙を第三者の立場とする場合
・ 訴訟経済に反する、事実の合一画定の要請に反する、量刑のバランスを図ることができない。
A 乙が公判廷で「共同被告人」として供述する場合
・ 可能。乙は被告人であり、黙秘権を有し、供述義務を負わないため、甲の反対尋問権が害される、という問題がある。しかし⇒実質的には、311条3項により、質問の機会は与えられているから、甲に対する関係で証拠能力を認めてよい。
B 乙が公判期日外で供述した供述調書
・ 乙の供述証拠は、甲にとって伝聞証拠である。よって、甲が証拠とすることに同意しなければ、原則として証拠能力がない。
・ 乙は甲にとって「被告人」なのか「第三者」なのか。前者によれば322条1項、後者によれば321条1項。⇒法律関係の個別性、単に弁論が併合されているか否かによって取り扱いが異なるのは相当でない⇒「第三者」
再伝聞とは 伝聞供述の中にさらに伝聞が含まれたり、書面の中に伝聞供述が含まれる場合。
再伝聞を証拠としてよいか。 肯定。324条2項⇒321条1項3号を準用して証拠能力の有無を判断する。
同意書面(326条)の同意の性質は。 反対尋問権の放棄と、証拠能力の付与。⇒証明力まで認めるものではないから、これは争える。
弾劾証拠とは 公判期日における証人等の供述の証明力を争う証拠。328条。
証明力を争うとは。 証明力を減殺させること。回復証拠の提出も含まれる。
弾劾証拠として提出しうる証拠とは。 同一人の自己矛盾供述に限られる。同一人が異なることを言ったこと自体を立証すれば虚偽の可能性が生じて証明力がその分減退し、弾劾目的が達成される。
違法収集証拠の排除法則とは 証拠の収集手続が違法であった場合に、その証拠能力を否定し、事実認定の資料から排除する原則。
排除法則の根拠は。 憲法31条 適正手続の保障、35条 令状主義 の精神。
・ 違法な手続により収集された証拠に証拠能力を認めると、捜査機関が将来にわたって違法な収集を行うことを助長することになりかねない。(違法捜査の抑止)
・ 適正手続の保障に反する
・ 司法に対する国民の信頼を揺るがす事にもなる(司法の廉潔性)
排除の基準 @令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、Aこれを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合に、証拠能力を否定すべきである。
毒樹の果実とは 違法に収集された証拠によって発見することができた他の証拠(派生的証拠)にも排除法則が及ぶ(波及効)。
波及効の排除の基準は。 @違法の程度、A両証拠間の関連性
6.公判の裁判
事項 定義
一事不再理効とは 審判が済んだ以上、同じ事件は二度と取り上げないという原則。